会長
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会長就任のご挨拶
愛媛大学農学部生物環境学科 教授 鑪迫 典久

この度、日本内分泌撹乱物質学会会長を拝命いたしました愛媛大学の鑪迫典久です。これまで副会長として学会運営に携わってまいりましたが、本学会を取り巻く状況が大きく変化する中で会長という重責を担うこととなり、改めて身の引き締まる思いです。これまで本学会を支えてこられた歴代会長、役員ならびに会員の皆様に敬意を表するとともに、皆様のお力をお借りしながら、本学会の発展に努めてまいります。
現在、本学会が直面する大きな課題の一つが会員数の減少です。これは学会運営上の問題であるだけでなく、わが国における内分泌撹乱問題への関心の低下を反映しているようにも思われ、憂慮しています。かつて「環境ホルモン」として大きな社会的関心を集めたこの問題も、現在では若い世代を中心に十分に認知されているとは言い難い状況です。また、環境省が長年継続してきたEXTENDについても今後の展開が見通しにくく、産・官・学のいずれにおいても、国内の関心は以前に比べ低下しているように感じます。
しかし、社会的な関心が低下したことと、科学的な問題が解決したことは同じではありません。
内分泌撹乱作用は、発生、生殖、成長、代謝、行動などへの影響として現れる可能性があり、低濃度・長期曝露、発生期曝露、さらには複数化学物質への複合曝露など、従来の毒性評価では十分に捉えにくい課題も残されています。規制対象となっていないことや、目に見える被害が報告されていないことをもって、問題がなくなったと考えることはできません。
海外に目を向けると、EUでは2018年にECHA(欧州化学品庁)とEFSA(欧州食品安全機関)が、農薬およびバイオサイドを対象として内分泌撹乱物質を科学的に同定するためのガイダンスを公表し、内分泌撹乱特性が農薬等の承認可否に関係する制度が既に運用されています。すなわち、欧州では内分泌撹乱作用は研究上の問題にとどまらず、化学物質管理における具体的な評価項目となっています。
一方、日本では、内分泌撹乱作用そのものを直接の根拠として化学物質を包括的に規制する仕組みは、欧州ほど明確には整備されていません。しかし、それは「日本では内分泌撹乱を気にする必要がない」ということを意味するものではないはずです。むしろ社会的関心が低下している今だからこそ、何が科学的に明らかになっており、何がまだ分かっていないのかを整理し、社会に正確に伝える専門家集団の役割が重要になっていると考えます。
さらに、現在の化学物質問題は、特定物質による比較的高濃度の曝露から、多種多様な化学物質への低濃度・複合曝露へと変化しています。PFAS、農薬、医薬品・生活関連化学物質(PPCPs)、プラスチック添加剤、NIAS(非意図的添加物)など、今日注目される物質群にも内分泌系への作用が疑われるものがあります。従来のエストロゲン、アンドロゲン作用だけでなく、甲状腺系、ステロイド合成系、代謝系などを含めた評価、さらには作用機序の異なる化学物質の複合曝露をどのように評価するかも、今後取り組むべき課題です。
こうした状況を踏まえ、私は今、本学会の**「地盤固め」と「再構築」**が必要な時期に来ていると考えています。
まず、学会として科学的独立性と中立性を堅持することが重要です。化学物質を必要以上に危険視することも、十分な科学的検証なしに安全と結論づけることも、本学会の役割ではありません。産・官・学の研究者が立場を越えて議論し、科学的エビデンスに基づいて「分かっていること」と「分かっていないこと」を整理し、行政、産業界、そして市民に分かりやすく発信していくことが、本学会の使命であると考えます。
同時に、若手・中堅研究者が積極的に参加できる学会にしていかなければなりません。従来の内分泌撹乱研究に加えて、PFAS、農薬、PPCPs、プラスチック添加剤、NIAS(非意図的添加物)、複合曝露、野生生物影響、ヒト健康影響など、周辺領域で研究する方々にも広く参加していただき、異なる分野の研究者が議論できる場を作っていきたいと思います。
学会大会やシンポジウムの充実、若手研究者の参画促進、他分野との連携、行政・産業界との科学的対話、そして社会への情報発信を一つ一つ進めることで、本学会の存在意義を改めて明確にしていきたいと考えています。
内分泌撹乱問題は終わったのではなく、社会から見えにくくなっただけなのかもしれません。
今一度この問題を科学の立場から見つめ直し、日本内分泌撹乱物質学会だからこそできる研究、議論、情報発信を進めていきたいと思います。学会の基盤を固めながら、新しい時代に対応した学会へと再構築する、いわば本学会の「リボーン」に取り組むことが、会長としての私の役割であると考えております。
会員の皆様のお力なくして学会の活性化は実現できません。ぜひ積極的に学会活動にご参加いただき、忌憚のないご意見をお寄せいただければ幸いです。皆様のご支援、ご協力を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

日本内分泌攪乱物質学会
会長 鑪迫 典久

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